渇いた大地を覆う砂を一陣の風が巻き上げ、視界が薄いベールに覆われる。
しかし、居並ぶ戦士達は微動だにせず、その時を待っていた。
それは、彼らの背後に控える、彼らのパートナーとなる爆竜達も同じ。
そして、私も同じくじりじりとした時を過ごす。
既に太陽は中天に達し、気温は上昇の一途を辿る。
が、地表の熱に慣れた戦士達は、やはり動かない。
焦れた爆竜が唸りを上げ、微かな緊張と高揚が広がっていく。
やがて、厳めしい鎧に身を包んだ年老いた戦士が、
そして、それに付き従うように、砂色のマントを頭から被った男が姿を現わした。
同時に、戦士達の高揚が一息に高まり、空気がざわつき始める。
そのざわつきを敏感に感じ取り、昂しやすい爆竜が咆哮を上げた。
無言のまま一同を見回した年老いた戦士……戦士達の長老が、新たな戦士の誕生を告げる。
砂のベールを凪ぐように腰に佩いた剣を抜き、真横に払った長老の傍らで、新たな戦士が静かにマントを足許に落とす。
普段、彼が身に付けている軽量の鎧はない。
伸びやかな筋肉を覆う瑞々しい皮膚を晒した半身に、黒い唐草が刻まれていた。
左の肩に貼り付くようなソレに居並ぶ戦士達の中に、それまでとは違うざわめきが走る。
ある者は小首を傾げ、ある者は不満を洩らす。
竜人の戦士は、成人を迎えるとその身に刺青を刻む。
その図柄と大きさは、戦士としての資質や技量によって異なり、長老の判断によって決められる。
この年、この辺りの土地で成人を迎えた戦士は彼・アスカただ1人。
儀式の為、長老の屋敷に篭もってから7回、太陽が昇った。
通常よりも長いその期間に、アスカの技量を知る戦士達は皆、どれほどの細工が施されているのかと期待を膨らませていたのだ。
だから、彼らはその肩に刻まれた唐草に疑問を抱き、不満をこぼす。
が、戦士達のざわめきになど頓着せず、長老はアスカを促し、アスカはそれに従って長老の前に膝を付く。
向けられた背を目にした1人の戦士が息を飲み、その驚愕は風と同じ速さで戦士達に伝染する。
驚いたのは戦士達ばかりではない。私を含め、爆竜達も皆、目を見開いた。
「…伝説の竜だと…?」
誰かが呟く。
そう。アスカの肩に貼り付いていたのは、唐草などではなかったのだ。
どの爆竜にも似ていないソレは、天翔ける竜。現存しない、伝説にのみ生きるモノ。
そしてソレは、竜人にとって神に等しい存在でもある。
その『神』が、形の良い肩甲骨の上で踊っている。唐草と見えたのは、竜の長い腹を模したものだったのだ。
居並ぶ戦士達の中には『勇者』と称えられる者もいる。
その技量の高さ故に『神(=竜)』と仇名される者もいる。しかし、その身に竜を抱く者はいない。
「血は争えんということか…」
別の誰かの呟きが私の記憶を呼び起こす。
同じ『竜』をその身にまとう戦士が1人だけいた。アスカの祖父に当たる屈強な戦士だった。
今、儀式を執り行う長老と肩を並べ戦っていた勇敢なる戦士……長老はアスカに彼の姿を見たのだろうか。
「その竜に恥じることのない戦士となれ」
堅苦しい儀式には付きものの堅苦しい口上の後に付け足されたのは、長老自身からアスカへの祝いの言葉。
それにしっかりと頷き返すアスカの表情には、誇らしげな笑みが浮かんでいる。
額と、竜を頂く左の肩に剣の刃先を押し当て、長老はその剣を差し出した。
それを恭しく両手で受け取り、アスカはゆっくりと立ち上がる。
そして、儀式は終わり、戦士達は爆竜達と共に宴の場へと移っていった。
「ブラキオ!」
宴の主人公であるべきアスカが長老から授かった剣を手に駆けてくる。
「私がいない間、元気にしていたか?」
たった7日離れていただけだというのに、心優しい戦士は言う。
「淋しくはなかったか?」
「あぁ。それより、おまえは大丈夫なのか? 少し窶れたように見える」
「大丈夫。眠れなかっただけだから」
披露目の儀式を控えて緊張していたばかりではないのだろう。
刺青の染料には微量の毒素が含まれていると聞く。肌を傷付けるのだから痛みもある筈だ。
その痛みに耐えてこそ1人前の戦士、とでもいうのだろうか。私には到底理解できないことだが、それでも1人前の戦士として認められるこの日を待ち望んでいたアスカが無事儀式を終えられたことを嬉しく思わないわけではない。
「アスカ!」
唐突に割り込んできたのは、年若い戦士。
アスカよりも2つ年嵩の凛々しいこの戦士を、アスカは実の兄のように慕っている。
「おまえがいなきゃ、宴が始められないだろ。お歴々を待たせると後が大変だぞ」
「あ、あぁ。ブラキオ、おまえも行こう」
「いや。ここは私には暑すぎる。湖に戻る」
「じゃあ、後で行くから」
そう言ってアスカは踵を返す。
年嵩の戦士と共に駆けていくその背中で竜が舞う。
竜はやがて、アスカの肌に馴染み、そしてその姿を消す。
次にその姿を現わすのは、溢れんばかりにダイノガッツが迸る時……その身に刻んだ刺青が戦士の証とされる所以でもある。
できるなら、アスカには穏やかにその生を真っ当してほしいと思う。が、それは戦士としての生に反するもの。
「…黒き竜の祝福と加護を…」
呟きは風に攫われ、巻き上げられた砂と共に消えていった。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
巡さまから頂きました小説でありました!!
…そして掲載の際に「タイトルご自由に…」とお言葉を頂いたのですが
あたしの梅干大の脳みそでは、この小説に見合ったタイトルが思いつきませんでした…スイマセン。
ボケラー…と描いたタトゥー使用なアスカちゃんをネタにこんなに
萌え度の高いものが…やはり書く人の技量によるものですね。(涙)
ていうか、あたしが描いた限りにはへッポコお粗末な刺青も巡さんの表現力によりこんなに立派に…。(感涙)
巡さんのサイト『迎火宮』には、これに並ぶ、素敵小説が網羅ですので未見って方は損してますよ!!
マジ!是非!!(握り拳)
ついでにこの小説を拝読させていただいた後、
ムラムラとこの世界観を自分も描いてみたくなり
こんなものも描いてみたんですが…
![]()
プラウザのバックボタンでお戻りください