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(ビスカス、今そっちにルイボスが行ったわよ)

頭の中に聴きなれた『声』が直接、流れ込んできて思わずため息をつく。
(…エルダー…、何故止めないの。)
(あら。だって今回の件は、私もルイボスと同じ。あの子の味方ですもの。)
さらりとそういう同僚に、柄にもなく軽く頭痛を覚えたその時、
執務室の扉が心なしか乱暴に開いた。
今にも奥に控えるヌマ・O長官に掴みかかりそうな足取りで
近づいてくる男にビスカスはもう一度ため息をつくと、
自分の職務上、その進路に立ちふさがる。
「ルイボス・E・モーリス。許可のない謁見は認められません。出直しなさい。」
彼女のその表情はいつも妖艶な笑みを浮かべたそれではない。
相手を見据えたゾッとするくらい冷たい視線は秘書官兼護衛の職務をまっとうする為のそれだ。
大概のものは、まず怯むであろう視線を物怖じすることもなく、
むしろ怯むことも無く相手を見据えた。

「良い、ビスカス」
一触即発な空気を破ったのは、奥に控えてあったヌマ・O長官の声だった。
「しかし…」
「遅かれ早かれ、ここにエドガーか・・・はたまたテツ本人が来るであろうと予想はしていたよ。」
「なら、話が早い。」
そういうとルイボスは目の前に立ちはだかるビスカスの横をすり抜け、長官の目の前で対峙する。

「…スペキオン星人、ジェニオの件。何故、今、テツを担当から外すんです?!
あいつが何故、特キョウになったのか…あいつが今までヤツに相対するためにどれだけ苦労してきたか…!
育ての親である長官が一番ご存知のはずでしょう?!」
いつになく感情的に話すルイボスの言葉に思わずビスカスは目を伏せた。
テツの、ジェニオに対する今までの憎悪や悲しみや色々な想いは彼女もよく知っていることだから。
「……仕方が無いのよ。」
「…ビスカスさん…?」
「宇宙最高裁判所からジェニオに関して辞令が降りたのよ。ポートレートにされた被害者の救助方法が見つかるまで、消してジェニオをデリートしてはならない。必ず『確保』せよ。と。」
「……それは…本当ですか?」
宇宙裁判所、異例の決定だと、ビスカスは言葉を続け、ヌマ・Oはその通りだと頷いた。
「ああ。いくら実力が『特キョウ始まって以来の天才』などと言われていたりするとはいえ、
それを素直に遂行できるほど、テツは『オトナ』ではない…。エドガー、それはお前も知っているだろう?」


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2年前?のジェニオ初確保時。
こんなやりとりが上であったりな〜とか妄想。
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執務室からでてきたルイボスは、廊下に備え付けられてる長椅子にいささか疲れた様子でどっかりと腰をおろす。

「交渉はうまくいかなかったようね?」
いつの間にか横に現れたエルダーに、特に視線を送るでもなくルイボスは
「…交渉以前の問題だな。すいませんね、何も聞かずに執務室へ通してくださったのに。」
(初めから、わかって通したんだろう。この魔女め)
相手がESPであることを承知の上で、内心毒づいた。

「ええ、わかっていたわ。でも期待もしていたのよ?
まあ、望んでた通りにはいかなかったけれど…。」
心の声とはいえ「魔女」と呼ばれたことにさして気にした風でもなく
エルダーは紅い目を細める
「でもあなたはよくやったほうじゃないかしら?」
その言葉にルイボスは横目で多分自分の思考をもう一つ読んだのであろう白い魔女を見る。

あの後、長官に宇宙最高裁判所から降りた辞令でジェニオの担当から外されたテツの引継ぎを、ならば自分に任せてくれと直談判したのだ。


「俺も甘くなったもんですよ。すっかり情が移っちまってる。」
「…でも、よく知ってるあなたがジェニオ担当になったことでテツも少しは…」
なんでもお見通しの魔女でも気休めを言うことがあるんだな。そんなことを思いつつルイボスは言葉を返す。
「…納得するはずがないでしょう!・…これは俺の考えですがね、その『事件』ってのは
それに関係している本人が、どんな形であろうと一応のケリをつけるまでは終わらないですよ…」
思わず声を荒げてしまったことで我に返ったのが語尾は苦笑交じりで、ルイボスはを壁にもたれかけた。
「…俺の人生経験からして、ね。言い過ぎました、すいません。」
「良いのよ、その考えは間違ってないと思うわ。」
覗くつもりはないのだが、男の脳裏に一瞬浮かんだ少女の映像にエルダーは少し切なげに目を細める。

(…本当、ここには色々抱えた子達がたくさんいるのよね…)